『高齢期向けの総合社会保険の創設』
槙コンサルタントオフィス 代表取締役 槙 孝悦
1.本論の目的
わが国は世界第二の経済大国としての地位を確保して久しい。しかし、来る21世紀においてもその座を確保できるかどうかという視点においては、懐疑的な見方が増えてきているように見受けられる。その理由として、現在の長期不況を背景に蔓延している心理面でのネガティブ傾向を差引いたとしても、_新たな技術創生が見込めない、国民に進取発展の精神がなくなった、_国内労働力が不足する、などさまざまな根拠が示されている。また、経済の成長とともに戦後一貫して発展充実してきた社会保障、なかんずく社会保険制度が財政的に立ソ行かなくなり、生活実感として老後の不安が増大しているため、国民全体が守りの姿勢に入っている状況がうかがえる。こうした中で、投資よりも貯蓄、起業リスクの回避といった現象が現れており、企業においても、新規参入分野における積極的な事業展開よりも、対症療法的なリストラ(労働者減らし)が採用されている。近代資本主義は、国民、企業が自己リスクを前提に自由な経済活動を行い、その総和が拡大することによって国全体の経済力が高まり、結果として国民の生活レベルも向上するという仕組みである。したがって、積極的に事業を展開すればリターンも高まるが、一方で失敗のリスクも大きくなる。起業家が自らの蓄えを吐き出し、無一文に近い状態になるのも多いことは、これまでの歴史が証明しているところである。もちろん、経済システムとして再挑戦の機会は用意されているが、老齢に向かう時期にこうした状況になった場合、再起は相当に困難であろう。そしてわが国のような超長寿の社会において、これではみじめな老後生活、人生の敗残者となってしまうことになる。社会保障制度はそうした不幸を軽減するために工夫された社会システムである。経済競争で負けた人、もともと競争にハンディがある人に手を差し伸べ、社会の構成員であり続けることができるよう支援するものである。この仕組みが健全に機能していれば、国民は「後ろを心配することなく」経済活動に勤しむことができる。しかし、これが機能不全に陥り、あるいは崩壊すると予想されるならば、国民はそれぞれの自助努力で老後の準備をしなければならなくなる。つまり、社会保障というセーフティネットの巧拙が、社会全体の進取、冒険の機運を左右する重要なファクターになっているのである。にもかかわらず、社会保障の各制度は軒並み将来の運営に赤信号が点滅している。財政的に破綻すると言われているものの、それを回避するシナリオは示されていない。言わば「座して死を待っている」状態のようにも見えるようで、そのような報道をするマスコミもまま見られる。現在の状況に拍車がかかれば、[表1]に示したような最悪のシナリオが成立することになる。このような事態を防ぐためには、何としても社会保障の健全性を回復しなければならない。本論は、こうした問題意識に立ち、特に高齢期向け社会保障制度再構築の方向性を検討・提案するものである。
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